東京高等裁判所 昭和43年(う)187号 判決 1968年4月30日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一〇年に処する。
理由
所論は原判決には法令の適用を誤つた違法があると主張し、原判決認定の第一乃至第三の事実にはそれぞれ住居侵入の所為があるとして起訴したところ、原判決は、右住居侵入の所為は判示認定の事実と牽連犯の関係にあり科刑上一罪とされるが、本質的には数罪であるから各別に公訴時効が完成するものと解すべきところ右各住居侵入の所為は昭和三八年中に犯されたものであつて本件起訴当時は既に公訴時効は完成して居るから免訴すべきものであるが、これらは判示認定事実と牽連犯の関係にあるものとして起訴されたものであるから主文においてその言渡しをしない、と判示したが、右は従来の判例に反し法令の解釈適用を誤つたものであるというのである。
よつて案ずるに、所論指摘の如き起訴がなされ、原判決が所論の如く住居侵入の点について実質上免訴の措置をなしたことは記録上明らかである。然るところ、原判決挙示の証拠によれば、右住居侵入の事実はいづれもこれを認めることができるが、右住居侵入はいづれも原判示の犯行をなす為に同日犯したものであるから刑法第五四条第一項後段の牽連犯としてその最も重い罪の刑に従つて処断すべき場合に該当するところ、牽連犯の公訴時効はその結果たる行為が手段たる行為の時効完成後に実行された場合のほかは最も重い罪の法定罪を基準として牽連犯の関係にある全犯行について時効の成否を決すべきものと解するのを相当とし(昭和三八年一二月一一日東京高等裁判所判決参照)本件においてはいづれも重い原判決第一の強盗強姦未遂致傷罪、同第二の強盗罪、同第三の窃盗罪の刑につき定めた公訴時効に従うべきところ、右第一の点は昭和四二年一〇月二一日、同第二の点は同年一一月二〇日、同第三の点は同年同月二一日の各起訴当時未だ公訴時効が完成していないことは暦算上明白であるからその公訴権は消滅していないのである。従つてこれと見解を異にし、公訴時効が完成したものとして右住居侵入の点につき実質上免訴の措置をなした原判決は刑事訴訟法第三三七条第四号の解釈適用を誤まつたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由がある。
よつて刑事訴訟法第三九七条第三八〇条に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い当裁判所において更らに判決する。
<中略>
法律に照すに、被告人の判示各住居侵入の所為は刑法第一三〇条罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、その他の同第一の所為は刑法第二四一条前段第二四三条に、同第二の所為は同法第二三六条第一項に、同第三の所為は同法第二三五条に該当するところ、右強盗強姦未遂致傷、強盗、窃盗の所為と各住居侵入の所為とは互に手段結果の関係があるので同法第五四条第一項後段第一〇条により夫々重い前者の刑に従い、右強盗強姦未遂致傷罪については所定刑中有期懲役刑を選択し、以上各罪については被告人が自首したものであるから同法第四二条第一項第六八条第三号を適用して法律上の減軽をなし、これらと原判決認定の確定裁判のあつた罪とは同法第四五条後段の併合罪であるから同法第五〇条により未だ裁判を経ない右罪につき更らに処断することとし、同法第四五条前段第四七条第一〇条に従い最も重い強盗強姦未遂致傷罪の刑(自首減軽したもの)に法定の加重をなした範囲内で被告人を懲役一〇年に処し、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項但書に則り原審並びに当審におけるもの全部を被告人に負担させないこととする。
よつて主文のとおり判決する。(久永正勝 津田正良 四ツ谷厳)